恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第52章 Espresso Control / 🌊✳︎✳︎
キッチンに置いてあるエスプレッソマシーンから2回コーヒーを抽出した後、私は自分のエスプレッソに冷蔵庫から取り出した牛乳を少しだけ入れてスプーンで混ぜる。
エスプレッソの味はなかなか濃い。こうしないと私は飲めないからだ。
付き合い始めた当初、義勇さんは牛乳を入れる私を不思議そうに見ていた。けれど、毎回の事なのでそれもいつの間にか無くなった。
それでもたまに彼のエスプレッソが飲みたくなって少し貰う時もあるが、やっぱり濃厚でひと口飲んでは彼にカップを返してしまう。
そして今回も例に漏れず ———
「んー、やっぱり苦いね」
「どうしてそれがわかってるのに、お前は飲むんだ?」
「もしかしたら飲めるようになってるかもって、どこかで期待しちゃうから」
「そうか」
また今日もこのやりとりを交わす私達。
義勇さんは受け取ったカップをごく自然な動作で受け取ると、いつものようにズズッと一口飲む。
私のように顔をしかめる事はなく、それどころか口元にほんの少し笑みを浮かべて満足そうだ。
自分と3つ違いの義勇さんだけど、エスプレッソが飲めるかそうじゃないか。ここにその年齢以上の段差を感じてしまう。
それは1階から2階へ昇る階段のような長さとでも言おうか。
せめて一段分だけでも埋めたくて挑戦しているのだけど、現実はなかなか難しい。
自分の舌はエスプレッソの濃厚さに白旗をあげてしまうばかりだ。
「うん、今日もおいしいよ。ミルク入り」
「そうか」
一足先にエスプレッソを飲み終えた彼は、カップをテーブルに置くと私の肩をそっと引き寄せる。
すると心地よく、トクントクンと上昇していくのは胸の鼓動。
そうなってしまう理由 ———これは寡黙な義勇さんからのちょっとした合図の為だ。