恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第50章 一炎・ニ水・三ヒノカミ / 🔥・🌊・🎴
〜義勇と行く初詣〜
『人が多い所はやはり苦手だ』
今日は1月3日。三が日と呼ばれる最後の日。俺は歩いて10分程の距離にある神社に来ていた。目的は初詣ともう一つある。
「三が日最後でも人多いですね。すみません、義勇さんが苦手って言うのにわがまま言ってしまって…」
「気にするな。塩大福が年始だけの特別版になると来れば行かないわけにはいかない」
不得意とは言え、恋人が”行きたい”そう希望するならば。
出向かねば男がすたる —— 錆兎が生きていたなら、きっとこんな風に言ってハッパをかけてくれるのではないか。
そんな事を考えていた矢先の事だ。
「義勇さん、いつにも増して凄い人ですね。流石は以心伝心ですけど」
「そうだな」
初詣が終わり、おみくじも引き終わった。今年の干支である卯のお守りが欲しいと言う七瀬のそれを買い、楼門を出た俺達は目の前の光景にやや気後れをする。
今や俺の大好物となった塩大福を買う為に50人はいるだろうか。通常の倍の人数が店から神社に向かって長い列をなしていた。
「行くぞ、売り切れだけは御免被る」
「はい!行きましょう」
右隣にいる恋人の左手を握り直し、少しだけ早足で列の最後尾に並ぶとそれに倣うように自分達の後ろにも次々に人が並ぶ。
“塩とあんこが増量らしいよ!”
そんな声が前から後ろから飛び交っている。あの美味すぎる塩とあんが倍か。脳内に想像しただけで、口腔内が湿った。
「義勇さん、増量って聞いたら私口の中が湿ってしまいました」
ふふっと恥ずかしそうに右手で口元を押さえた七瀬を見ると、ポッと胸の中があたたかくなる。
それから20分後、何とか塩大福特別版を購入出来た俺達は店の前で早速食した。
1組につき、4つまでと言う限定にも関わらず、売り切れたようだ。やはりこの店の塩大福は凄い。
俺も七瀬もあっという間に完食だ。
「美味しかったー!!良かったですね、食べれて。おみくじも大吉だったし、幸先良い始まりです」
「ああ、そうだな」
“義勇!今だ!男を見せろ!”
この時、親友の声が脳内に響く。
俺は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。残念ながらこれが自分の精一杯だ。
“お前が隣にいさえすれば、いつも幸先が良い”
錆兎、そんな事は口下手の自分には言えない。
end.