恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第49章 両手に炎 〜炎柱ver.〜 / 🔥・🎴
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『むむ、俺が不在の隙を狙ったか……』
炭治郎と七瀬を庭で待っていた杏寿郎。彼は2人の姿が視界に入った瞬間、ううむと唸っていた。
2日前に見た2人と、今の2人では明らかに纏う雰囲気が違うからだ。
杏寿郎は強引で人の話を聞かない部分もあるが、元来は心の機微の動きに聡い人間である。
加えて柱特有の洞察力も備えている。
口に出されなくとも、雰囲気で事の相違を掴む事は彼にとって難しい事ではない。
「おはようございます、師範!任務お疲れさまでした。今日からまたよろしくお願い致します」
「師範、おはようございます。無事のお戻り何よりです。お留守中は炭治郎と2人で自主練をたくさん行いました。地稽古でその成果を見せれれば……と思っています」
「竈門少年、沢渡、2人とも労いの言葉をありがとう!今日からまた厳しくいくぞ!」
「はい!!」
一見、いつもの3人によるいつもの早朝稽古だ。
だがこの日。杏寿郎は継子2人の連携攻撃により、初めて一本を取られた。
今までも2人が稽古中に連撃をしかけてくる事はあったのだが、一度として一本は取らせていなかったのだ。
「炭治郎やったね!師範にやっと勝てたー!」
「ああ!七瀬が上手く技を合わせてくれたお陰だ!」
杏寿郎はじんじんと痛む左脇腹を右手で摩りながら、手を取り合って喜ぶ2人の様子を見ていた。
敗北感と言うには清々しい。この気持ちは一体何なのだろうか。
『恋仲になった事で、互いの呼吸もぴたりと合うようになったか……』
彼の胸に気持ちの良い涼風が吹いた。そして笑顔を浮かべる師範だ。柔軟を経て早朝稽古が終わった所で炭治郎は杏寿郎に声をかける。
「師範、お話したい事があるんですけど」
杏寿郎は覚悟を決めた。
湯浴みが終わったら後で自室に来るよう継子に伝えると、炭治郎ははい!と目を輝かせて返事をし、縁側から屋内に入った。
彼の姿が完全に見えなくなった所で、師範はふうと一度深く息を吐いた。