恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第49章 両手に炎 〜炎柱ver.〜 / 🔥・🎴
その1時間後……
「ごめんなさい。2人がとても楽しそうにしてたから、つい横槍を入れてしまいました……」
七瀬は浴室にいた。
浴槽に身を沈めた彼女を後ろから包むように抱きしめているのは、杏寿郎である。
その呟きを聞いた彼は、七瀬の右頬に小さな口付けを贈った。
「実際、竈門少年と鍛錬するのは楽しいからな」
「いいなあ、炭治郎が羨ましい……」
「そうか」
「はい」
『本当にかわいい事ばかり言う』
杏寿郎は七瀬が愛しくて仕方なかった。
くりすますけーきの件以来、度々自分に対して素直な感情を見せている為だ。
「七瀬との鍛錬も好きだぞ?しかしな、俺はこうして君と2人で過ごす時間がもっと好きだ。ほっとするし、何より心があたたまる」
「私、杏寿郎さんを困らせる事ばかり言ってる気がしますが…」
「困らせる?そんな事あるものか!もっと君の気持ちをぶつけて欲しいと思っているぐらいだ」
「もう……本当に大好きです!」
2人はこの後、七瀬がのぼせる直前まで湯浴みの時間を満喫する ———
★
「あ〜俺、完全に入り込む隙ないなあ」
炭治郎が厠(かわや)で用を済ませた帰りの事。
浴室の扉の前を通り過ぎる瞬間、甘い甘い恋慕の香りが鼻にすっと入り込んで来た。
『でも七瀬の幸せそうな顔を見ると嬉しくなる。良かったなとも思う……』
そして彼は ———
『報われなくても、思い続けても良いよな。もしかしたらって事もあるかもだし!』
右拳にグッと力を入れ、笑顔で顔を上げる。
『よし!自主練を後30分やるか!』
炭治郎は意気揚々と歩き出し、ひとまず自分の部屋へ急ぐのだった。
「………」
「杏寿郎さん?どうしました?」
「いや、何でもない。今日の昼餉は何か考えていただけだ」
「ふふ、そうなんですね」
脱衣所で着替えを済ませた杏寿郎は、同じく着替えを済ませた七瀬の頭を撫でると笑顔を見せる。
『竈門少年、七瀬は絶対渡さんぞ』
継子の密かな決意を師範は扉越しに感じとっていた。
杏寿郎と炭治郎。
2人の恋戦(こいいくさ)はまだ始まったばかりだ。
〜杏寿郎と食べるくりすますけーき〜
end.