恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第49章 両手に炎 〜炎柱ver.〜 / 🔥・🎴
『24日と25日……やっぱり好機だったんだな』
珍しく早朝稽古の時間になっても2人が庭に現れないので、気になった炭治郎は杏寿郎の部屋へと進む廊下を歩いていた。
そこに近づくにつれて強く熱く、そして甘い匂いが漂って来る。
彼は全てを悟ってしまった。
杏寿郎がいない2日間。
七瀬は一見楽しそうに過ごしていた。悲しい顔をしたわけでもないし、寂しいと聞いたわけでもない。
ただ ——
七瀬から発せられる匂いには切なさが漂っていたのだ。
「炭治郎、おはよう!こんな格好でごめん。すぐ用意して庭に出るね」
「おはよう、わかった!でも焦らず来てくれ」
寝衣に厚手の羽織を纏った七瀬は師範の部屋から慌てて出てきた。そして炭治郎とすれ違う。
しかしあまり顔を見られたくないのか、足早に通り過ぎてしまう。
『物凄い恋慕の匂い……』
「竈門少年、おはよう!今日も寒いな。俺はもう行けるが」
「あ、師範!おはようございます。ではお願いします」
七瀬の後ろ姿を見ていた炭治郎は背後から杏寿郎に声をかけられた。
既に道着を着用した彼は、いつもと変わらない様子だ。
「君に隠し事は通用しないから、この場で言っておく。七瀬と恋仲になった」
「……そうみたいですね」
“七瀬”と呼び捨てで呼ぶのはこの家で自分だけだった。その細やかな特権がもう独占できないのだ。
そう実感した炭治郎は、胸がちくっと痛む。
「師範、お願いがあります」
「ん?どうした」
「今日の稽古……俺は師範と互いの呼吸を使用して鍛錬したいです」
「うむ、いいだろう!」
この時、2人の心にポッと炎が灯る。