恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第49章 両手に炎 〜炎柱ver.〜 / 🔥・🎴
ドクドクドク……!
七瀬の心臓の鼓動の速度が更に跳ね上がる。
勘違いではなく、彼女は杏寿郎を好いている。
だから上手に出来た甘味を慕っている彼に食べてもらいたい —— その一心でここへやって来た。
「だい、じょうぶ、です……」
「そうか、嬉しいな」
包んだ左頬を愛おし気に撫でた杏寿郎。
今度は頬ではなく、彼女の唇に口付けを落とした。
ちう、と一度音を響かせた杏寿郎は「君が好きだ」と言葉を発する。
それと同時に七瀬をゆっくりと抱き寄せた。
遠慮がちに彼の広い背中に細い両腕がまわる。互いの間に沈黙が数十秒程、通り抜けた。
「私も……」
「どうした?」
密着した体を名残惜し気に杏寿郎は離し、今度は思い人の両頬をそっと包んだ。
先程と同じように瞳を潤ませた七瀬に、柔らかな口付けを贈る。
「ゆっくりで構わない。君の気持ちを聞かせてくれ」
彼女は頷き、1つ深呼吸をした。大丈夫。きっと言える。そんな思いを胸に抱えながら。
「……私も師範が好きです。大好きです」
恥ずかしそうに。
だが、はっきりと自分の目を見て伝えてくれた七瀬に杏寿郎は愛おしさで胸がいっぱいになった。
更にもう一度、彼女の唇に小さな口付けを贈る。
恋人になった継子の名前を彼女の耳元で囁くと、いよいよ七瀬は頭が沸騰してしまう。
そして自分の事も名前で呼んで欲しいとねだった杏寿郎。
師範と継子から恋人同士になった瞬間、である。
「七瀬がせっかく持って来てくれたんだ、一緒に食べよう」
「はい、杏寿郎さん……」
2人はおぼんにのったぱんけーきをようやく食べ始めた。
ふわふわした狐色の生地に白く乗せられた生くりーむ。そしてその上にちょこんと鎮座した2つの苺。
「うまい!君と同じでかわいらしいけーきだな!」
一口食べてにっこりと笑う杏寿郎はとても嬉しそうだ。七瀬の胸に灯るのは、恥ずかしいけどあたたかい気持ちである。