恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
「そうか、忘れていなかったのか……」
「はい……」
七瀬の死を看取った千寿郎は、すぐに兄へ報告をする。
和室の縁側に座った2人の膝上には、杏寿郎の子供達がすやすやと寝息を立てていた。
1人は息子、もう1人は娘だ。息子は煉獄家の遺伝子をしっかりと受け継いでおり、髪の色は杏寿郎や千寿郎と同じ鮮やかな金髪である。
「よもや……俺の術が効かぬとはな。驚いた」
フッと口元に笑みを浮かべた杏寿郎は、目の前の庭に一度視線をやる。そして娘の髪をゆっくりと梳かし始めた。
『いや……効かなかったのではないな、無意識にしてしまったのだろう。七瀬に自分の事を忘れて欲しくない。そんな身勝手で自己中心的な思いから』
「子供達すっかり寝てしまいましたね。俺、寝室に連れて行って来ます」
杏寿郎がそんな事を思案していると、右横にいる千寿郎が立ち上がり、一旦部屋を退室する。
『もしも……あの時違う道を選んでいたら ——— 』
その時、彼の右目からあたたかい雫が流れた。それはぽた、と娘の小さな頬にあたる。
「ん…あめ?とうさま、大変!お部屋に入らないと!」
少女は慌てて起き上がり、父を見上げた。
「とうさま?どうしたの……?」
「大事ないぞ!気にするな」
自分を心配そうに見る娘に対して杏寿郎は笑う。一見何でもない風を装う ——— が。
「かあさまには内緒にするね」
「む……!」
思いがけず見破られたか。彼は驚きを隠せず、目を丸くした。
『よもや、よもや。やはりおなごは鋭いな』
「とうさまとわたし、ふたりだけのひみつ!」
「ああ、頼む」
差し出された小さな小指。それに自分の小指をゆっくり絡めた杏寿郎はこんな事を思い出していた。