恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
『お前さあ、涙って流した事あんの?』
これは七瀬を手放した際、狛治に言われた言葉だ。
『涙と言う物は……心がこんなにも締め付けられるのか。初めて知ったな』
『杏寿郎さん』
脳裏に描かれるのは、胸の奥の奥に押し込めた愛おしい七瀬の笑った顔だった。
『ほんのひと時でも、君と一緒にいれて俺は本当に幸せだった。七瀬、どうか安らかに眠ってくれ』
庭に植えられたあんずの木。それが柔らかい風に吹かれ、実った果実がふわっと揺れる。
杏寿郎の鼻に届いたのは、七瀬に初めて出会った時に香ったあの匂いだった。
『うむ、耳の後ろからほのかに感じるこの匂い。間違いないな』
『あの、あの、何の事』
『あ、私は七瀬です。杏寿郎さん、で良いですか?」
『大丈夫だ!君は七瀬か、良い名だな!』
『君の事が好きだ。愛している』
『私もあなたが大好きだよ』
end.