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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎



それから数十年の時が経った。

とある和室の一室。杏柄の浴衣を着用し、仰向けになっている1人の老婆がいた。
そこへ ——


「七瀬さん、すみません。心配で来てしまいました」

音もなく現れたのは杏寿郎の弟の千寿郎だ。彼女と出会った時の外見は10代前半だったが、今もそれは変わっていない。

布団の傍らに静かに座った彼は、寝ている彼女の顔をそっと覗き込む。顔色は青白く、吐く息も弱々しい。千寿郎は垂れている眉毛を更に下に向け、ふう……と静かに息をついた。


「千……寿郎くん?」
「え……どうして覚えていらっしゃるんですか?」

彼は驚いた。自分の記憶は七瀬の脳内から消えていると聞かされていたのに、予想外の事が起こった為である。


「ふふ、久しぶり、すごいね、本当に見た目が変わらないんだね」

しわが深く刻まれた目元に笑みが宿る。外見が変化しても、そこは兄の恋人だった時と変わっていなかった。


「杏寿郎さんの術の効きが悪かったみたい。忘れる事が出来なかったの……」

「そう、なのですか」
信じられなかった。杏寿郎が使用する妖術は長となる前から強力だったからだ。


「多分だけどね……彼に対する思いって言うのかな。それが…杏寿郎さんの術より強かったからかもしれない」

「元気にしてるよね!」
—— そう発した七瀬の表情からはまだ兄が心の中にいるのだ。千寿郎はぐっと胸が締め付けられた。


「ええ、とてもお元気ですよ。長になり、子も3人産まれました。俺はすっかり叔父さんです」

「かわいい叔父さんだね。そっか、長になったんだ…良かった」

「はい…」


ここで会話は途切れた。七瀬が音もなく、瞳を閉じたからだ。


「七瀬さん……兄上をずっと思って下さって…ありがとうございました」

まだ微かに暖かみがある右手を握った千寿郎。
おでこにそれを当てながら、彼は部屋へ来た時と同じように静かに涙を流した。

これが、七瀬との永遠の別れであった。


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