恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
「……本気なんだな」
「はい」
七瀬が儀式前に身を清めている間の事だ。俺は父・母・弟がいる和室に来て話をしていた。
「父上と母上には今日(こんにち)まで、俺も千寿郎も大切に育てて貰って来た —— そう自分は自負しています。しかし、それは七瀬にも同じ事があてはまるのではないかと考えているのです」
大切に…とは言うもの、両親はただ優しいばかりではなかった。
“妖狐一族を束ねる煉獄家に生まれた者は、いつ如何なる時でも強く気高くあるように”
そんな厳しい事を常に言い聞かせてくれたのは母だ。
人間から妖狐の妻になった母は覚悟を持って、父の伴侶になった。
並大抵の決断ではなかったはずだ。
何故なら、妖狐の嫁に選ばれた者はそれまで住んでいた人間界に別れを告げ、更に自分に関わって来た者達の記憶を抹消しなければいけない。
「七瀬に出会う以前、俺に縁談の話があったと記憶しています。先日所用で町に向かった所、その家の娘がまだ婚姻を結んでいないと耳に入れました」
「兄上、それでは……その……?」
自分の左横に座っていた弟が”まさか”と言う雰囲気を醸し出しながら、俺に問うて来る。
「千寿郎が考えている事で合っているぞ」
「そう……ですか」
両目を閉じた弟は体を震わせ、膝に乗せている2つの拳をグッと握った。
「七瀬の瞳の狐火を消し、狛治に託します。無論俺達の記憶も彼女から抹消して」
「……わかりました。では私が先方に連絡をしましょう」
俺の覚悟を了承と捉えた母上はふう……と1つ深い息をしたのち、腰を上げて静かに泣き出した千寿郎と共に、和室を退出していった。
残されたのは父上と自分の2人だけだ。
「やはりお前は、じいさんによく似ているな」
「と言うと、先々代……曽祖父ですか?」
「そうだ」と懐かしそうに、目の前の父は瞳を細めた。