恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
〜杏寿郎から見た景色〜
トコトコ……と小さな体で七瀬に向かって歩いて行く。
正座をしている彼女の前までたどり着いた。
ぽん、と人の手より小ぶりなそれを恋人の頭に乗せ、それからゆっくり撫でていく。
そんな姿に少し安心したのか、強張っていた彼女の顔に笑みが宿る。
「凄く癒されるよ、ありがとう」
「ならば安心だ!どうだろう、儀式の前に少し話をしないか?」
「話?」と小首を傾げながら、君は俺を膝に乗せる。
「そうだ!」と彼女の心臓がある位置に頭頂部の右耳をあてると、そこは穏やかに鼓動を刻んでいた。
「夜はまだ始まったばかりだ。この儀式は3日3晩続く。それに妖狐の本来の姿になると理性を保つ事が難しくなる。以前伝えたな?」
「うん……」
「故にだな!ほんの数刻で構わない。君の気持ちを落ち着かせると言う意味でも話がしたいのだ」
「ふふ、わかった。いつも私を気遣ってくれてありがとう」
“大好きだよ”と小狐の俺を更に抱き寄せる七瀬だ。
そして1時間後、彼女との話が終わる。
うむ、やはりそうか。
自分の考えが正しかった事がわかり、俺は決意を胸に秘めた。
ちう、と七瀬の頬に鼻を当ててまずは通常時の姿に戻る。
膝の上には白い浴衣を着て、自分を見下ろす七瀬が乗っていた。
「あのね、私本当に何もわからないの……。だから杏寿郎さんを呆れさせるかもしれない」
「そんな事を心配する必要は全くない!ありのままの君を見せてくれ」
「うん」とかわいく頷く七瀬。
瞬間 —— 細く、切っ先が鋭利な針に刺されるような痛みが俺の胸を支配する。
彼女と目が合う。自分と揃いのしるしでもある狐火が瞳の奥でゆらゆらと揺れているのが確認出来た。
すまんな、七瀬。俺は君の事が本当に好きだ。心から大切に思っている。
だから……
「狐火・消炎」
「えっ………」
七瀬が目を閉じ、気を失う。細い肩に右手を回してポンポン…と2回あてた。
「君を大事に思っているご両親や友人から奪う事は出来ない」