第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎

背中から彼の掌が離れた、と思う間もなかった。トン……と敷かれた布団の上に私は仰向けに押し倒される。


「これが最終確認だ…今ならまだ人間のままでいられる」

「ありがとう。大丈夫だよ」

「妖狐の寿命は人間より遥かに長い。一度契約を結べば、君は二度と人間に戻る事は出来ない」

「本望だよ。杏寿郎さんとずっと一緒にいたいんだもん。だから離さないで」

「本当にどこまで可愛いんだ、君は」

ちう、と優しく降ってくる口付けを受け止める。2、3度啄まれた後はあたたかな舌が様子を伺うように口内に侵入して来た。


「ん、や……あ」

瞳の奥がきゅん、と疼く。足りない。もっと求めてほしい。根底からそんな思いがふつふつと湧き上がる。

「君の瞳の狐火が反応しているようだな」

「はん、のう？」

両の瞼に彼の唇が触れた、と思うとドクン…と心臓が反応する。


「先程から君の体の中に妖力を少しずつ流し込んでいる。疼いているのではないか？俺が欲しい、と」

………そうなんだ……だからこんなに……。


「私の全部を差し出すから……杏寿郎さんも全部くれる？」

「無論、そのつもりだ。俺の体も心も全て君の物だ。七瀬……愛している。共に生きていこう」

「私もあなたが大好きだよ、愛しています」

再び口付けが始まった。舌が絡み合い、唾液が互いの口元からつつ……と流れた。彼の牙が時々歯に当たって背徳感のような感情も湧く。でもそれが心地よい。

水音を響かせて唇が離れると、来ていた浴衣の帯を解かれた。ぐっと合わせ目を左右に開かれると、肌が露出してややひんやりとした空気が当たった。


ほう……と感心した息を漏らす杏寿郎さんが嬉しそうに顔を綻ばす。



「君を抱けるのは、今もこれからも夫、そして唯一の番（つがい）である俺だけだ。離れる事は許さない。よく覚えておけ、七瀬」

彼の狐火が瞳の奥でゆらり……と燃え始めた。