恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
「そう……かな」
「ああ、愛いすぎて堪らない」
「ん、」
おでこが離れたと思うと、瞼に鼻、頬に唇。彼の柔らかい口付けがそこかしこに降って来た。
「七瀬」
「……!な、何?」
この囁くような低音ボイス。耳元で名前を呼ばれるだけで、体が震えてしまう。
胸の鼓動の速度も急上昇していく中、彼が次に発した言葉は ——
「君が欲しい。直ちに俺の妻にしたい」
「えっ……あの……は……い」
じっと間近で瞳を覗き込まれる。視線の先には紅く燃える狐火が2つ見えた。
自分の瞳の奥にもあると言う、その炎は妖狐の嫁……番(つがい)となる者の証なのだと言う。
口調はいつもの杏寿郎さんだけれど、どこか逆らえない物を感じた私は了承の返事をする。それから彼が私から少しだけ離れると、目を閉じた。
2人の間に出来たスペースは握り拳3つ分だ。彼は右手人差し指と中指を立てて、呪文を唱え始める。
「——— 解放」
杏寿郎さんの姿が一変した。
鮮やかな金髪は肩の位置から腰までの長さに伸びて、左頬には燃える炎をかたどった紅い痣が浮かび上がっている。
いつも私に優しく触れてくれる指先の爪は湾曲して、先端が鋭い。
そして触り心地が良い尻尾が9本に「七瀬」と呼んでくれた口元からちらっと覗く、尖った牙。
「……怖いか?」
眉尻を下げた彼から、心配そうな声色が漏れた。
先程よりうんと早鐘を打つ自分の心臓の鼓動。右手を胸の位置に当てて、息を整える。深呼吸を2回ほどした私は、目の前の恋人にこう返事をした。
「ううん、怖くないよ。やっぱり凄く綺麗」
そうか…と表情を柔らかくした彼の背中に私は腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「杏寿郎さん」
「うむ」
「私を………」
「どうした?」
背中に触れられた大きな掌がぽん、ぽんと2回優しく上下する。
「あなたのお嫁さんにして下さい」