恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
トコトコ……と小さな体がこちらに向かって歩いて来る。
正座をしている私の前までやって来た彼。ぽん、と愛らしさを感じる手が私の頭に乗ったかと思うと、そのままそこを撫でられた。
可愛らしい姿に硬くなっていた心と体が少しずつ綻んでいく。
「凄く癒されるよ、ありがとう」
「君は大丈夫だと言ったが、やはり緊張するだろうなと思ってな。それを少しでも和らげるにはどうすれば最善か。考えた結果がこれだ!」
杏寿郎さん……本当によく私の事見てるんだなあ。嬉しい。
心がほっこりして来たのと同時に、彼を抱き上げて腕の中にそっと収めた。さわさわと両手に当たる尻尾の感触がまた心地よい。自然と自分の顔に笑顔が浮かんだ。
「杏寿郎さんの言う通り、物凄く緊張しててね。だから小狐の姿で来てくれて安心してる」
「そうか、であれば良かった」
うん、と頷いた私は腕の中にいる彼を更に抱き込んだ。初めて杏寿郎さんと会った時、そう言えば耳の後ろを嗅がれたなあと急に思い出し、すぐ目の前にあるぴょこんと立った三角形の耳に鼻を寄せた。
すう……と息を吸い込むと、そこから漂って来た香りは ———
「あ、これあんず?」
「む?」
ここから香りがするよ……と右人差し指で狐の耳を指すと、彼の合点がいったようだ。
「ほら、初めて会った時に私の耳から仄かに香るって言ってたじゃない?あれって、もしかしたらあんずなの?」
「そうだ!」
「やっぱり!私ね、あんずの香りって凄く好きなの。杏寿郎さんの名前にも杏って言う漢字が使われているよね。それ知って益々好きになったんだ」
瞬間 ——— ちょこんと私の頬に獣の鼻が当たる。いつも通り眩しい光が現れ、それが収まると私を膝に乗せた杏寿郎さんがそこにいた。
「君は本当に俺を喜ばせるのが上手いな、七瀬」
両頬が包まれたかと思うと、彼のおでこが私のそれに優しく当たる。