恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
「落ち着いたか?」
「うん……ありがとう、もう大丈夫だよ。えっ?」
涙も収まり、後ろから包んでくれている腕を外そうとすると、ぎゅっとまた抱き込まれた。
「そんな事を言わないでくれ。俺はもう少しこうしていたい」
うなじに彼の唇が触れ、また私の右頬にあたたかな左頬がぴたっと当たる。
いつもはここまで —— なのだけど、今日の彼は頬を擦り寄せて来た。
うわあ、なんか可愛い!
杏寿郎さんが甘えて来るのはなかなか貴重。彼はいつもしっかりしていて頼り甲斐があり、弱みはあまり見せないからだ。
「ふふ、わかったよ。じゃあもう少しこのまま包んでいて下さい」
「うむ、承知した!所で先程の話の続きだが……」
「あ、仮装コンテスト。当日の流れはね……」
★
それから5日後。
文化祭当日 ———
『ハロウィンが近いから仮装している人が多いのに、それでも注目されるってすごいなあ』
私の視線の先 —— 左横には杏寿郎さんが妖狐姿で歩いている。
茜色の直衣(のうし)、頭には獣の耳、そして臀部にはふわふわの尾。
普段こちらの世界で彼と出かける時は、人間の姿に擬態しているのでなんだか新鮮だ。
「今回でハロウィンを経験するのは3回目だが、皆の仮装が本当に凄いな!む?七瀬!あれは何だ?」
杏寿郎さんが目線をやった先には、赤い1つ目に小さな手足が付いた、とあるアニメのキャラクターの姿をした人物がいる。
「目玉のおやじだよ」
「目玉が父親なのか?」
「うん。先に妖怪になった息子を通じて……」
彼は自分の遺体の左眼球に魂を宿らせて生き返った。
そしてその眼球に、小さな身体と手足が生えた経緯を一通り説明すると、ほう!と興味深そうに頷いてくれた。