恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
「千寿郎、構いませんよ。入りなさい」
「あ、はい!では……失礼致します」
襖の前に立っていた彼の頭にも三角形の耳が2つと、後ろには触り心地が良さそうな尻尾が生えている。
「申し訳ございません、お邪魔ではありませんでしたか?」
「そんなわけないだろう」
「ええ」
ありがとうございます……とお礼を両親に伝えた千寿郎は、縁側に仲良く座る2人に近づいていった。そして、その後ろに腰を下ろす。
「来週、なんですよね。七瀬さんが兄上と……その」
彼の言葉尻が小さくなり、顔を下に俯けた。まだあどけなさを残す少年の顔は真っ赤。
「そうです。300年振りに私達に新しい家族が出来ます」
「千寿郎は初めてだな、お前にとっても大事な出来事となるが……どうだ?」
息子を見る2人の顔は、穏やかで嬉しそうな様子だ。千寿郎は顔を上げ、とても嬉しいと告げる。すると両親が破顔した。
「自分に兄がいるだけでも幸せなのに、姉と呼べる方まで出来るのです。それがとても幸せです」
でも…とその先を告げた千寿郎の表情がやや曇る。
「そうだな、それはこの世界のしきたりだ。嫁となる物は受け入れねばならん。今丁度2人で話していた所だ」
「そう、ですか……」
しばらく3人の間に沈黙が落ちる。その場に声を再び響かせたのは息子の名前を呼んだ瑠火だった。
「あなたに杏寿郎、そして槇寿郎さん。4人で過ごす毎日に私はとても感謝していますよ」
「母上……」
母が見せた笑顔に息子は目頭を熱くした。
そうして3人が見上げた空の上には、槇寿郎や千寿郎と同じ黄金の髪のように光輝く月が鎮座していた。
「上弦の月、か」
七瀬が杏寿郎と情交を結ぶまで、後1週間。