恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第46章 狐火の契約 / 🔥✳︎✳︎
〜妖狐一族の理(ことわり)〜
長となる者は伴侶に人間の女を娶るべし。ただし、相手になる女は異性と交わった経験が一度もない事が条件。
何故なら妖狐の霊力の大半を番(つがい)に選んだ者に注ぐ為、一切の汚れ(けがれ)がない生娘でなければその霊力を受け入れる事が出来ない。
尚……
——— パタン。
ふう、と深く息をついた男は和綴じの書籍を閉じた。その頭には左右にピン!と形の良い獣の耳が双方に鎮座している。
ここは妖力を持つ狐…即ち妖狐が住む世界。槇寿郎は代々続く妖狐一族を束ねている煉獄家の長だ。
「槇寿郎さん、お茶と甘味を持って来ました。どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「なあ…」と妻に話しかける妖狐の長に「どうしました?」と聞き返すのは元・人間の瑠火。
「君は俺の妻になった事を後悔していないか?」
「あら、どうして今そんな事を仰るんですか」
かくかくしかじか……と理由を説明する槇寿郎に目を見開きつつも「ありませんよ」ときっぱりと返事をする妻だ。
「ありがとう、やはり君を見初めて本当に良かった」
「こちらこそ。あなたとこうして共に生きる事が出来て、私はとても幸せです」
ズズっと同じタイミングで茶を啜り、甘味の芋けんぴを齧る2人の後ろでそれぞれの尻尾がふわふわと揺れていた。
「杏寿郎と七瀬さんなら、きっと良い夫婦となるでしょう」
「そうだな」
『今は……話しかけるのをやめておこうかな』
2人がいる部屋の前で、入室をためらっているのは息子の千寿郎。見た目は10代前半の少年だが、年齢は300歳である。