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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第45章 4年後の茜色へ / 🔥✳︎✳︎



トク、トク、トク……と七瀬の左耳に杏寿郎の心音が伝わって来る。大正時代 —— 彼の継子だった自分をほんの少し思い出す。
辛くなった時はいつもこの響きを体に感じ、己の気持ちを奮い立たせて来た。

しかし、明日からその機会は少なくなる。彼女の胸を支配するのは”寂しい”と言う、どうしようもない気持ちだ。


「杏寿郎さん、明日から頑張って前向きになります。だから……今日は思い切り泣き言言って良いですか?」


七瀬の両の目尻から涙がポロッとこぼれた。その雫を杏寿郎は親指の腹部分で拭うと、両手で恋人の頬を包み込む。


「無論。俺は君の恋人だからな!」

おでこがコツン、とあたる。七瀬は一度瞳を閉じ、ゆっくりと開けた。


「やりたい事があるから、その為に進学先を探しました。北海道にしかないと知って……行くのなら東京を離れなきゃいけない。杏寿郎さんからも離れなきゃいけない。それでも……叶えたいと思ったから決心しました」

「うむ」と1つ頷いた杏寿郎はおでこを離し、七瀬を後ろから包み込むように抱きしめた。
自分の顔を直接見ない方が、正直な思いを吐露しやすいのでは ——そう考えたからだ。

華奢な右肩に自分の顎をちょんと乗せ、両手は小さな手の真上から重ねる。
そして七瀬の5指の隙間から自分の指を絡めれば、色をのせた彼女の繊細な指先が目に入った。


「前日になってやっぱり行きたくないなあって凄く思っています。毎週あなたに会えてたのに……月に1度会えれば良い距離に離れてしまう。大好きな杏寿郎さんに会う回数が少なくなるのは、寂しいです……耐えれそうも……あり……ません」


七瀬は、体を震わせながら泣き出した。杏寿郎は何も言わずに、ただただ恋人を抱きしめ続けた。


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