恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第45章 4年後の茜色へ / 🔥✳︎✳︎
「…………」
「…………」
右頬を包んだ杏寿郎の大きな手と一緒に、七瀬の顔から彼の唇がゆっくり離れていく。
「1番上に来た時にこうするのだろう?」
「知って……いたんですね」
「最も俺が把握したのはここ最近だがな」
『宇髄には本当に頭が上がらん……』
杏寿郎の脳内には両腕を組み、ドヤ顔で笑う美術教師の顔が思い浮かんでいた。
驚きと歓喜の感情で双眸を潤ませた七瀬。
その様子に愛おしさを感じた彼は、おでこに小さな口付けを1つ落とし、絡めている恋人の右手の爪先にも己の唇をそっとあてた。
「杏寿郎さん……私の心臓の音、凄いんですけど」
「奇遇だな、俺もだ」
「え、本当に?」
「確かめてみるか?」
七瀬の右手に絡んでいた彼の左手が外されたかと思うと、手首をやんわり掴まれた。
そうして彼女の右手は杏寿郎の心臓の位置にピタッと当てられる。
ドクドクドク…と小刻みに走る鼓動が、七瀬の掌(たなごころ)に十二分に伝わって来た。
ふふっと笑顔をこぼした彼女が「大好きです」と彼の心臓に口付けを贈ると、更に脈打つリズムが小刻みになる。
15分間の短いけれど、濃厚な空中散歩。
互いの心の拍動が心地よく跳ねる道程を辿ったのであった。
★
「わあっ……ベイブリッジ、車で走るの初めてです!」
コスモワールドを出た2人。昼食を中華街で豪華に食した為、夕食はファミレスで手頃に済まし、帰宅の途についていた。
時刻は午後20時半過ぎだ。
「夜のドライブって素敵ですね。私、これにも憧れていたんですよ」
うっとりとキラキラした眼差しで、車窓からの景色を堪能している七瀬。
杏寿郎の胸にまたあたたかさが増していく。
『今日が日曜日でなければ、この後も共に過ごせるのだが……。仕方あるまい』