恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第45章 4年後の茜色へ / 🔥✳︎✳︎
カン ———
枝に何も芽吹いていない桜の木が見守っている中、揃いの紺の道着を着用した七瀬と杏寿郎は、庭で手合わせをしている。
七瀬が攻めれば、杏寿郎が受け流す。
杏寿郎が攻めれば、七瀬が受け流す。
そんな2人の様子を見守っているのは、庭での物音を聞き、駆けつけた槇寿郎、瑠火、そして千寿郎だ。
「2人のこの光景もしばらく見れなくなるんですね……。私は終わった後、5人皆で縁側に並んで過ごす時間がとても好きなのですが」
瑠火がどこか寂しそうに笑いながら、声を発した。
「あの、母上!」 『る……』
「どうしました、千寿郎」
瑠火の左側に槇寿郎、そして右側に千寿郎が座っている。
槇寿郎より半歩先に。息子から声をかけられた彼女は、両手に持った湯呑みを一口啜ったのちに顔を向けた。
「七瀬さんがいらっしゃらない時でも、俺はこうして父上と兄上と……そして母上とここで過ごしたい……です」
「千寿郎、それは七瀬さんがこの家にいらっしゃる前から過ごしていた、と私は記憶してますが?」
「えっ、あ……そうでしたね。申し訳ありません」
「ふふ、構いませんよ。それだけ彼女が溶け込んでいる証拠ですもの、ねえ?槇寿郎さん」
「そうだな、瑠火さん」
“千寿郎に先に言われてしまったか……”
息子と同じ事を考えていた —— 槇寿郎はくくっと含み笑いをする。すると不思議そうに瑠火は首を傾げた。
『いずれは娘に……と考えている子だからな。七瀬さんは杏寿郎だけではなく、俺達3人にとってもかけがえのない存在だ』
ほうじ茶をずずっと啜った煉獄家の主は、改めて息子とその恋人が剣を交える様子を見て微笑んだ。