恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第44章 口は難し、筆は饒舌 / 🌊
「俺、感激してます。まさかここで冨岡先生にお会い出来るなんて…」
「……………」
義勇は目の前の少年のキラキラとした視線を受け、照れ臭さからキョロキョロと視線を彷徨わす。
「彼女に好きな作家さんだからって教えて貰った時に、先生の事を初めて知りました。あの、すみません。最初はその……」
「見た目が良いだけの作者か —— そんな風に思った?」
少年が言いにくそうにしていた様子を察し、その発言に追加するように、七瀬が問うた。
するとコクンと彼は頷いた。
「デビュー作の満ち凪を読んで、その印象は払拭されました。先日もエッセイ出されていましたよね。俺も先生と少し似ている部分があって……」
「満ち凪……?俺と似ている?」
聞き慣れない単語、そして自分と似ていると言われた義勇は再び戸惑った。
「満ち凪は”満ち潮合間に凪”の略称です。同じって言うのは……」
助け舟を出した七瀬の説明を聞き、ようやく合点がいく義勇である。
「じゃあ、俺そろそろ行きます!一時帰国中のこのタイミングで、しかも思い入れがあるここでお会いできてラッキーでした。これもありがとうございます!」
少年はサインが入れられた義勇の文庫を右手に掲げ「彼女に自慢出来ます」と茶目っ気がある笑顔を見せる。
そうして2人に頭を下げた後にくるりと背を向け、展望デッキを後にした。
「勇希くん、通訳になる夢が叶うと良いですね」
「そうだな……」
「きっと叶う」
「先生がおっしゃると説得力が増しますね」
「そうか?」
「はい……」
「父と同じ名前だった」
「え、そうなんですか?」
「若い頃、通訳を目指して留学したと言っていた」
「へえ…素敵ですね。その後はどうなったんですか?」
七瀬は左横にいる義勇の方を向いた。すると彼も同じように七瀬へと体を向ける。