恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第44章 口は難し、筆は饒舌 / 🌊
「俺、来年の4月から留学するんです。だからその前に記念って言うか…そんな感じです」
「そっかあ、素敵だね」
「そうですか?照れ臭いだけですよ。家族と旅行って」
七瀬は目の前の少年と、つい先程帰宅の途についた義勇の顔が重なった。
スマホを受け取った彼女は待っている彼の家族の正面に立つ。
「何枚か連写しますねー」
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ…………
★
「ふう」
義勇が七瀬と羽田空港へ行った日から1週間が経過した。
彼は目の前のデスクトップパソコンから目を離し、眼鏡を外した。眼球周りを少しだけ指圧した後はキッチンへ向かう。
彼はコーヒーを淹れる為、電子ケトルのスイッチを入れ、冷蔵庫からコーヒー粉を出す。
脳裏に思い出すのは、七瀬との出来事だ。
新しく自分の担当になった編集者と擬似デートをした。
とは言うもの、それは執筆に必要だと己が考えた策であり、特にその行動に他意はない。
ただ、七瀬と過ごす時間は思いの他楽しい物だった。彼女といる内にふと空港へ行きたくなり、義勇は七瀬を連れ立って羽田へ向かった。
『勝手に帰った俺はさぞ感じが悪かっただろうな』
大きめのマグカップにソーサーをセットし、コーヒーフィルターに乗せられている焦茶色の粉。それに沸騰したケトルのお湯をゆっくりまわし入れていく。
マグカップには”ワイキキ”と文字が印刷してあり、その下にはパイナップルのイラストとダイヤモンドヘッドを思わせるイラストが書かれていた。
七瀬の前の担当者が、以前お土産だとくれたマグカップだ。
担当者が義勇の過去を知るはずもなく、たまたまの出来事だった。
彼はそれを見るなり家族との事を思い出す。
少しデザインは違うが、自分の母も現地で同じハワイ仕様のマグカップを購入していた。