恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第44章 口は難し、筆は饒舌 / 🌊
「あ、私です」
七瀬は右手を上げて、自分の目の前に置いてもらうように促した。
「グラタンセットでございます」
続いて、義勇が頼んだセットを店員が持って来る。彼の目の前にプレーンパンケーキ、グラタン、サラダ、コンソメスープが置かれた。
「メイン以外は全部同じメニューなんですね」
「……そうだな」
そんな些細な会話をしたのち「いただきます」と互いに挨拶をして食事を始める。
「せん……じゃない、義勇さん。パンケーキ専門店だけどハンバーグとても美味しいですよ!ジューシーです」
「……………」
『あ、そうだ。食べながら話せないんだよね』
義勇が言っていた事を思い出しながら、七瀬は黙々と食事をしていく。
それが5分と少し続いた所で、2人の間に訪れていた沈黙に音が加わった。
「グラタンも本格的でうまい」
どれどれ……と七瀬は目線を上げ、義勇が食べているグラタンを見てみると、既にグラタン皿の半分が彼の胃の中に姿を消していた。
「ふふ、良かったです」
「ああ」
それからまた2人の間に穏やかな時間が流れる。
時おり義勇の口の中が空になったタイミングで、彼からの「うまい」や「もっと食べたい」と感想が漏れる度に七瀬は顔を綻ばせた。
「ありがとうございましたー!またのお越しをお待ちしております」
店員のお礼の言葉を背中に受けながら、2人は店の外階段を降りていく。
スカートが長めな七瀬は、足をもつれさせないように慎重に慎重に降りていたのだが、後3段 —— と言う所で前を向いていた義勇が彼女の方を向いて、右手を差し出す。
「すまない、気づくのが遅くなった」
「……………」
「沢渡……?どうした?」
「あ、いえ。大丈夫です、ありがとうございます」
『何だ…先生、ちゃんと見てくれてる』