恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第44章 口は難し、筆は饒舌 / 🌊
そして翌日の月曜日。
ピーンポーン——— ♪
「はい」
「おはようございます。沢渡です。解錠お願いします」
待つ事3秒。目の前の透明な扉が開いた。
七瀬はそこを通り抜け、昇りのエレベーターを待つ。
ピーンポーン ——— ♪
先程一階の外部インターフォンで交わしたやり取りが再び交わされ、玄関扉が開いた。中から眼鏡をかけ、いつものジャージ姿の義勇がまだ寝ぼけ眼でこちらを見ている、が ——
「おはよう」
七瀬は驚いた。義勇が自分から挨拶をして来るとは思わなかったからだ。
「おはようございます。朝から申し訳ありません。昨日のお話の続きをしたくて……」
「それは?」
最後まで話し終わらない内に義勇は七瀬が手に持っている紙袋に視線を注ぐ。かなり強く、だ。
「あ…はい、鮭大根を作ってみたんです。先生お好きだと以前の雑誌記事を読んで知ったので。宜しければ」
「……そうか」
たった3文字の言葉だったけれど、どことなく彼の雰囲気が穏やかで柔らかい。好物と言うのは間違いなさそうだ。
いきなり手料理を持参するのはどうかと思ったが、それより義勇との距離を埋めたい。
そちらの思いがまさった上での行動である。
★
「いただきます」
「……どうぞ」
ダイニングテーブルに1つの皿がのっている。七瀬が持参した鮭大根だ。
義勇はいつものソファーの位置に座ると両手を合わせ「いただきます」と挨拶をし、箸を持ってまず鮭の身を食べやすい大きさにほぐす。
そしてそれを形が良い唇に持っていく。
モグモグと動く義勇の口元。
前回と同じく、左斜めの場所に座った七瀬はじいっと見つめていた。
『昨日上手く出来たからそのまま持って来てみたけど、これって成功かな?』
ゴクンと喉が動く。するとまた先程と同じように今度は鮭ではなく半月状にカットした大根を半分に切り、義勇は口元に持っていき、それを咀嚼していく。