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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第44章 口は難し、筆は饒舌 / 🌊


それもこれも全ては義勇の言葉が足りない為だ。


「はい、単行本を文庫化したいのでその件についてです。該当の作品はデビュー作の”満ち潮合間に凪”ですね」

「そうか……」

「…………」
「…………」

2人の間に沈黙が落ちる。
代わりに響くのは義勇が塩大福を咀嚼する音と、ほうじ茶を啜る音だけだ。


“あんま喋んないからな。言葉引き出すの大変だぞ?”

七瀬の脳内には先程まで一緒にいた前任者の言葉が、右脳から左脳、左脳から右脳へ何回も木霊しながら往復していた。

「では質問を変えますね。先生は文庫化するにあたって、ここを加筆したいとかそう言った思いはありますか?あれば是非聞かせて下さい」

「いや、特にない」

「……再度質問を変えます。文庫版のあとがきで書きたい事って何かありますか?例えば……本の大きさが単行本より小さくなるから、読者さんが手に取りやすいんじゃないか、とか………」

「……………」

「あの、先生?」

「ああ、すまない。塩大福があまりにも美味いからこの餡はどうやって仕込んでいるのか、そればかり考えていた」



“あんま喋んないからな。言葉引き出すの大変だぞ?”

七瀬の脳内に再び前任者の言葉が響く。
そしてこうも思う。

『どうしよう、寡黙に加えて天然要素もあるなんて………』

「美味かった。立て替えて貰った分は後で渡す」

「あ、はい………」

「(文章が思い浮かんだ)俺は原稿に取りかかる」

「え、冨岡先生………」

ほうじ茶をゴクンと飲み干した義勇は「ご馳走様」と彼女に伝え、てちてちと歩いて書斎へと行ってしまった。



沢渡七瀬。編集者2年目。
轟出版に就職して、最大のピンチ(珍事?)に見舞われる事になる。



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