恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第43章 見えない艶っぽさを求めて / 🎴✳︎✳︎
「うわあ……どれも目移りするぐらい可愛い!!ねえ、炭治郎!これとかどうかな?」
…………勘弁してくれ。
俺には刺激が強すぎる。
家から出る前に”絶対成し遂げる”なんて気合を入れたと言うのに、店内に入った途端、その気合いは無常にも砂の城のようにサラサラと崩れ去る。
七瀬とよく足を運ぶショッピングモールにやって来た。
今日の目当てはランジェリーショップである。
そう、見えない所のおしゃれとは女子が着用する下着の事だ。
ピンク、ベージュ、黄色、黄緑、水色、白色、と無難な色合いの商品が鎮座する中、濃紺に深紅に深緑に……それから黒。
最後に見た色が視界に入って来た途端、俺は卒倒する程の目眩を覚えた。
「ちょっと炭治郎!顔真っ赤だよ?大丈夫……?」
「あ、ああ何とかな……」
ふらふらとした酔っぱらいのように安定しない両足。
これはダメだ…と思い、膝を両手で軽くパンと叩き、なけなしの気合いを入れて見るものの、それは全くもって無駄な抵抗であった。
「無理しないで。私1人で選んで来るよ。他のお店に行って来て大丈夫だから」
——— 不甲斐ない。
思わず高校時代の恩師である煉獄先生の口癖が頭に浮かんだ。
「終わったら連絡する」と言ってくれた七瀬の言葉に甘え、ランジェリーショップからトボトボと出る。
向かった先は本屋だ。次回の講義で参考になりそうな書籍を求めて1つ上のフロアにやって来た。
「おう、炭治郎お前もか?」
聞き慣れた声が左耳に入り、視線を向けるとそこには玄弥がいた。
「あれ?七瀬は?一緒じゃねぇの?」
「いや、一緒に来てるよ」
実は……と彼女から離れてここにいる理由を玄弥に伝えると、先程の俺と同様に顔を赤く染める。
しかしその後「頑張ったな」と労いの言葉を発しながら俺の肩をぽん、と励ますように大きな手をのせてきた。
何故なら玄弥も先日彼女とランジェリーショップへ一緒に行き、今の俺と同じように店内から離れ、恥辱から逃れたからだ。
急に現れた同志の存在がとてもありがたかった。そして俺は気になる事を玄弥に聞く。
「ばっ!おい、お前それ聞くのかよ!」
「すまない!でも凄く気になるんだ……」