恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第39章 雪嵐は春の訪れと共に / 🔥
2つの炎虎はぶつかって混ざり合う。しかし、杏寿郎が放った虎はやはり強力だ。紗雪の炎虎をみるみる内に飲み込んでいく。
『ちくしょう!得意な型さえも歯がたたねえなんて……』
ギリリ…と歯を食いしばった紗雪が取った策とは。
頭の右脇に木刀を構え、ザッ……と右足を後ろに引く。
途端に彼女の足元からモワ……と闘気が登り、空気と共にゆらゆら揺れる。
「奥義 ——— 煉……」
「ここが1番君は甘い」
いつのまに動いたのか、杏寿郎が紗雪の僅か50センチ程の距離まで迫っていた。
——— バシッ バシッ
闘気が出ていた両足を木刀で叩かれた紗雪は、釣り合い(=バランス)を崩し、お尻から勢いよく地面に落下した。
『いってぇ………』
涙が両目から滲んだ瞬間、槇寿郎の「杏寿郎、一本!それまで!」の声で勝負が終わった。
「はい、両足出して。手拭いで冷やすから」
「お願いします……」
私と千寿郎くんの間に座った紗雪は、いつもの勢いの良さは鳴りを潜めていて何だか調子が狂う。
両方の脚絆を外し、袴を捲れば出て来るのは膝のすぐ下の前すね。それが下に向かって5センチ程の楕円形になっており、真っ赤に腫れていた。
「あっ……いっ……」
よく絞った手拭いをペタッと両すねに当てると、少しだけ目尻から涙を流す紗雪だ。
「どうだった?炎柱は……」
はい、と先程千寿郎くんと一緒にお茶をいれた竹筒を力なく受け取った紗雪はゴク、ゴク、ゴク、と3口喉に流し込むと、はあ…と大きく息を吐いた。
「七瀬の言う通り……信じられないぐらい強かった…」
「だよね。本当に柱の強さって次元が違うよね……」
目の焦点がなかなか合わない紗雪だったけど、”お疲れ様!!”と私達2人の前に影が差すと共に鼓膜を震わす声量が届く。すると瞬く間に焦点が元に戻る。
「炎柱……参りました。完敗です……」
「基礎は甘いが、力は聞いていた通り!なかなかの物だ。どうだ?君も俺の継子にならないか?」
「えっ、杏寿郎さん!それ本気で言ってるんですか?」
「勿論だ!!」
いや…確かに紗雪と一緒に鍛錬出来るのは嬉しい。
嬉しさと彼と2人で稽古出来なくなる寂しさ。そんな複雑な思いを胸中に抱えていた矢先 ——
「杏寿郎、その役目は俺が引き受ける」
槇寿郎さんの”鶴の一声”が響いた。