恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第34章 狐に嫁入り? ③ / 🔥
「それは困るな。七瀬は俺が伴侶に……と考えている娘だ」
「誰だ?」
この声……!
狛治が私に向けていた水色の双眸を庭の方角に向けるとそこには……
「10年前、君に縄で締められた時は本当に困ったぞ。久しぶりだな、狛治」
茜色の直衣を身に纏った杏寿郎さんが腕組みをしながら、庭に立っていた。
「お前、妖狐か?…何故俺の名前を…」
そこまで言いかけてハッと記憶を思い出す狛治だ。
「成る程、あの時の小狐か。縄に強めの術をかけておいたが抜け出していたとはな」
彼はすかさず、縁側から草履を履いて庭に出る。
私が抜け出すのに協力した……とは口が裂けても言えない状況だ。
「すまんが、俺は七瀬に用がある。連れて行くぞ」
杏寿郎さんが私に向かって来ようとした正にその時 ——
「式神召喚・阿吽(あうん)」
狛治が右手に持っていた人型の式札を2枚自分の前に素早く投げると、それが狛犬の形に変わって彼の左右の足元に姿を表した。
2匹共大きさは神社で見かける阿吽の像と同じぐらいで、グルル……と唸り声を上げている。
「俺も七瀬と大事な話をしている所だ。その申し出には添えない」
「承知した。では君を倒すまでだな……」
杏寿郎さんが右手人差し指と中指を立てて、両目を閉じると呪文を唱え始める。
「——解放」
次の瞬間、彼の姿が一変した。