恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第30章 今日書くの、やめても良いですか? / 🎴
〜天元から見た景色〜
「あいつが書けないなんざ、いつもの事だろーが。どうせ1ヶ月もしない内に”私、この世で1番の恋をしているー”とかふざけた事を言うんだよ」
「編集長のおっしゃる通りかもしれません。でも今回は婚約寸前まで進展された方でした。俺はいつもより時間がかかると踏んでいるんですけど……」
俺のデスクの前で地味な表情をして、真っ直ぐ立つこいつは竈門炭治郎。
左側の額に火傷のような傷がある。入社一年目のひよっこもひょっこだが、熱意と努力と誠実を武器に曲者揃いの作家陣の心を溶かして来た。
今回沢渡七瀬が初めて担当と言える作家だ。
恋愛体質故に、編集者にもその被害が降りかかる事が多く、今まで15人の編集者が彼女の元から去った。
いずれも編集者側から「もう持ちません」とヘルプの声が上がる事から始まる。
困った俺は気まぐれで竈門を担当に配属してみた。
するとこの采配が功を奏したのか、一度もそんな泣き言を言わずに竈門は奮闘している。
こいつは一見優しいが、とにかく芯が強い。頑固と言って良い。そこがあのゆるふわ作家と相性が良いのだろう。
さすが、俺だな。うんうん、と腕を組み1人悦に入る。