恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第29章 夕暮れネイルに色香のeyes / 🔥✳︎✳︎
私は左横にいる彼にぎゅっと抱きつくと、右手を杏寿郎さんの左手に絡めた。
大きな手に小さく重なっている自分の手。じいっと見つめていると彼がこんな事を言い出す。
「また塗ってみるか?」
「え……」
塗るってそれはその……。
「俺の爪にも」
杏寿郎さんが再び唇に弧を描いて、綺麗に笑った。
前世と…いや、今回の私の心臓の方が脈打つ鼓動が速い。
とてつもなく速い。
それはこのネイルの色のせいだろう。
暗めの赤。ワインレッド。それは夜や大人を思わせるイメージ。
落ち着け、落ち着け、自分の心臓……。
スウ…と1つ深呼吸。
私の様子を見ながら「大丈夫か?」と聞いてくる杏寿郎さんは余裕の表情だ。
もう…いつだって動揺するのは自分だけ。悔しいな。
容器の蓋を開け、適量の液をハケにつけると左手に乗せている彼の右手を見る。大正の時と変わらない綺麗な爪。
まずは親指に。それから小指まで色を乗せていく間、ずっと心臓の鼓動が速いままだった。
「左手お願いします」
何とか無事に右手を塗り終え、彼の左手が私の左手に乗せられた。
2回目はいつもの調子を取り戻し、塗る事が出来た。
「しばらく指を伸ばしてて下さいね」
ハケを容器にしまい、ベッドの棚に置いて杏寿郎さんの方を向く。