第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
雪の帳を裂く蹄の音が、月宮に近づいてくる。
吹雪の中を、疾風のように馬を駆る影が一つ──
白い闇を切り裂くその眼に宿ったのは、凍てた怒りと、燃ゆる焦り。
壬氏が帰った。
扉が音もなく開き、冷気が寝殿に流れ込む。
そこに横たわる月娘の姿を見た瞬間、壬氏の瞳の底に隠しようのない激情が揺らいだ。
しかしその刃は、彼女が薄く眼を開くのを見てすぐに、深く沈む安堵へ変わった。
「戻ったぞ、月娘。」
月娘は呼吸を整え、静かに微笑む。
「おかえりなさいませ、瑞…。」
猫猫は横で薬湯の器を拭っていたが、突然の帰還にわずかに肩を跳ねさせる。
壬氏は猫猫を見る。
瞬間だけ、皇族の影を纏った鋭さ──
しかしすぐに柔らぎ、声は穏やかに。
「月娘を守ってくれたな。礼を言おう。猫猫殿。」
猫猫は眉をひそめる。
布で顔を覆い、喋るその姿に既視感を覚える。
「……壬氏様の特使文があったからです。月妃様は、万が一に備えていたのですね。」
壬氏は淡く笑み、月娘の手を取ったまま、視線を逸らさずに答える。
「月娘は……私の唯一の妃だからな。」
その声音は揺るぎなく、
猫猫が真実に思い至る隙を与えない自然さだった。
猫猫は首を傾げながらも、深く追及することなく頭を下げる。
蓮華が謁見の間に連れられてきた。
名家の誇りを纏っていた衣は雪花のように萎れ、膝を折る音が静寂に吸い込まれる。
月娘は寝床のまま、ゆっくりと体を起こし、まるで雪の上の白椿が夜風に応えるように告げた。
「毒とは弱き者の刃。私は己の意思で飲んだまで。」
その声は凛と澄み、宮中の全てに静かに降る雪のようだった。
壬氏は月娘の腕を支え、周囲を見渡す。
その眼差しは、雷鳴を潜めた冬空のように深い。
「月娘は散らぬ。散らす者があれば、宮の方を枯らす。」
その言葉に、蓮華は顔を伏せた。
家の影、欲の影、誤算の影──
その全てが雪の下に押し潰される。
女官たちは息を呑み、風すら止まったかのよう。
月宮は、再び絶対の静けさを取り戻す。
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事件は解決し、猫猫は後宮に戻った。