第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
蓮華の頬に、かすかに紅が差した。
だが口を開けば言い逃れは聞こえない。
証拠は重く、蓮華の近習もまた、蓮華からの命で動いたと告白した。
彼は金と家の未来を天秤にかけ、恐れて口を割ったのだ。
蓮華は遂に俯き、声が震える。
「……皇弟殿下は、この宮を固めておられる。月妃様が傍にいるゆえ、我らの家は置き去りにされると……家を守るため、ならば……。」
言葉は言い訳を探す。
だが誰もそれを許さぬ。
月宮の静寂は、今や法の場となる。
猫猫はさらに、とどめを刺した。
月娘の扇に残った指の油は、蓮華の香油と同じ調合だが、そこに混じる“蜜の甘い後味”の分子が、清左の鍋の残渣と一致する。
二つが合わさってこそ毒は機能した。
香は引き金であり、菓子は体内の媒介であった。
香の煙だけでは死なぬし、菓子だけでも遅効は起きにくい。
二つを合成させたのは蓮華のみ。
動機、手段、場面、指紋のような匂いの痕跡が揃った。
蓮華は膝を折り、最後にこう言った。
「我が家を──守りたかったのです。」
その声は哀れで、だが刑を免れる理由にはならない。
壬氏の特使文を預かっていた猫猫は、蓮華の私室から押収した薬材を提示し、女官組織の前で開示する。
蓮華は名門であるが故に、その失墜は大きい。
宮内の秩序と、月娘という“示威”を守るため、処断は早かった。
蓮華は投獄され、清左と香司もまた、命令に従った罪で罰せられるが、彼らの証言があったために情状は考慮される。
そしてなにより、月娘はゆっくりと目を開けた。
猫猫の手当てが功を奏し、遅効の毒は解けつつあった。
月娘は枕元の雪のような手を取ると、微笑んだ。
「よくやったわ。猫猫。あとは壬氏の帰りを待ちましょう。」
猫猫は目を細め、しかし言葉は淡い。
「壬氏様の特使文は重かったです。……ところで、肝心な時にその壬氏様はどこへ?」
月娘は猫猫の問いにギクリと目を泳がす。
「……壬氏は…殿下と一緒に視察よ。」
月娘は扇を傍らに取り、指先を掌へ当てる。
蓮華が残した油の香が静かに消えていく。
雪の庭に、静かな歓喜が落ちる。
毒は暴かれ、陰謀は砕けた。
月宮はまた、冬の光を取り戻す。