第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
猫猫は蓮華の居室を封鎖する。
壬氏の特使文は有効だ。
蓮華は上位の女官であり、家は名門、顔は麗しく、表向きは忠節の人であった。
だが、猫猫はその居室で見つけた小箱を指に取る。
箱を開けると、中には蓮華愛用の香油と、小さな布に染みた“同じ匂い”があった。
それは、月娘の扇に残った指紋の匂いと同じだった。
月娘が倒れた夜、扇は床に落ちたまま月光に映えていた。
あの扇の縁に残された指痕には、ほんの少量の油分が付着していた。
猫猫はその油分を試し嗅ぎし、蓮華の小箱の香油と同じ調合(紫檀樹脂と微量の甘香を含む)であることを確かめる。
匂いは人の記憶を結びつける。
猫猫の鼻は確かだ。
しかし、直接の証拠はまだ足りない。
猫猫がさらに掘り下げると、侍女の入替り記録に不審な朱印があった。
蓮華の近習の者が、夜中に菓子司の倉へ鍵を借りていた。
鍵を預けたのは、蓮華の私令である。清左は、それを拒めず、指定された菓子に特殊な蜜を混ぜるよう命じられていたと白状する。
蜜には、通常あり得ぬ薬草の抽出液が混ぜられていた。
香司の樹脂と合わされば、遅効性の真綿型毒になる。
仕組みは完璧だった:菓子を食べ、香が外側から体を包み、微量の薬が効き始めるまでに時間差が生まれる。
皇弟殿下が戻る前に“自然死”を偽装するのにうってつけの策だ。
猫猫は蓮華を御前に引き出す。
だが、やり方は一座で罵るような醜態ではない。
彼女は静かに、しかし全てをそろえた証拠を一つずつ並べる。
清左の鍋の焦げ、香司の紫檀の残渣、蓮華の近習の鍵の朱印、菓子の蜜の成分、そして何より――月娘の扇に残る指の油。
猫猫はその扇を取り出し、皆の前で軽く扇を振らせる。
扇から立ち上る匂いは、蓮華の胸元に巻かれた布の香と同じ芯を持っていた。
「証は揃った。」と猫猫は言う。
蓮華の表情は初め、穏やかだった。
だが、蓮華は名家の娘。
誇りと焦りのはざまで、声を振るわせる。
「私が、何故……」と蓮華は呟く。
猫猫は冷たく笑っただけだ。
「陛下の唯一を弱きものと見なしたのです。月妃様が『弱る妃』だと、貴女らは思った。ならば『弱らせて乗る』。それが貴方の策略だ。」