第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
猫猫は次に菓子の箱へ向かう。
菓子を作る職人、宮内の菓子司は三人ほど名を連ねるが、ある一つの職人だけが“蜜を煮る際に木灰を混ぜる”という古い技法を使う。
猫猫はその名を記す。
そこへ、庭先で見た季節外れの虫の痕跡を照らし合わせる──虫は樹脂の匂いに惹かれる。
樹脂を燃やした部屋、香を調えた場で、虫が繁殖する。
つまり、同じ空間が香炉と菓子の双方に関与している可能性が高い。
猫猫は侍女達の動線をたどる。
誰が茶を運び、誰が香を焚き、誰が菓子を差し入れたか–––。
宮の記録を洗うように頭に入れている。
そこで見つけたのは、ある奇妙な入替だ。
昨夜、茶を運んだのは常の侍女ではなく、内侍頭(上級女官)・蓮華(れんか)の近習の者だった。
近習は表向きは彩りを添えるだけだが、夜の帳が下りると行き来が激しい。
猫猫は昼過ぎに、壬氏の特使文–––。
紫の錦に極印の入った命令状を持って現れる。
壬氏が瑞月として旅立つとき、万が一に備え、月娘の側に置くようにと密かに預けておいたものだ。
猫猫の掌に、その印がある。
手にした役人は戸惑いながらも従う。
特使文は宮内の封を開く権限を与える。
「これで、誰の部屋も開けられる」と猫猫は小さく呟く。
命を預かる器は、権威を以て動くときに初めて姿を現す。
猫猫はまず菓子司・清左(せいざ)を呼び出し、蜜の調合の鍋を点検させる。
清左は緊張しながらも自分の鍋のふちの細かな焦げ跡を見せる。
そこに付着した不自然な薄膜–––。
微量のアルカロイド由来の残渣。
清左は驚き、しかし「昨夜、内侍頭・蓮華様の使いの者が、私の作業場に入って指示をしました」と打ち明ける。
猫猫は次に香司の房を訪ねる。
香司は蓮香(れんこう)という名の老職人。
彼の香棚にある紫檀樹脂を指で触れると、猫猫は蓮花の調合の一部が違和であることを嗅ぎ取った。
老職人は困惑しながら、「蓮華殿下(内侍頭)は、最近私に特注の樹脂を取り寄せる様命じられた」と口を割る。
しかもその樹脂は、通常の沈香より粘性が高く、加熱すると遅効性の化合物を発生しやすい。
すべてが、ひとりの影へと収束する。