第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
玄関の扉を開くとそこには草鞋が揃えて置いてあった。どうやら義勇は在宅しているらしい。
「ただいま戻りましたー」
「義勇さーん? 帰りましたー! どこですかー?」
七瀬と炭治郎が草履を脱ぐと、廊下の奥に向かってそれぞれ声をかけるが、反応はない。
「おかしいなー…」
「湯浴みじゃない? それか…あ、師範! 帰りました」
「…どうした?……えり」
廊下の奥から大きな手拭いで濡れた髪を拭きながら現れたのは、呼ばれた本人である義勇だ。言葉尻の声が小さく、二人にはっきり届かなかったが、どうやら【おかえり】と呟いたらしい。
「義勇さん、ただいま帰りました! 今日は七瀬と一緒に義勇さんに渡す椿油を買って来たんです」
「俺にか?」
何故突然炭治郎から椿油と言う言葉が出るのか、全く把握できない義勇だ。椿油と言えば髪に塗る品ではなかったか。
どう言う目的でそのような事をするのか、見当がつかない水柱。
その思考が伝わったのか、七瀬が炭治郎の横から助け舟を出す。
「師範は髪が長いでしょう? これ使ったら指通りも良くなるし、まとまりやすくなると聞いたので…」
「何故起床時、俺の髪がまとまらなくなる事を知っているんだ」
「(霞柱の言ってた通りだー…そんなに凄いのかな。朝の髪って)」
改めてじっと義勇の髪を凝視する七瀬。手拭いの間から見えるそれは半分乾いている。
更にじっと彼の髪を見てみようと思った彼女は草履を脱ぎ、スッと距離を詰めていく。一歩二歩と進む度に義勇との距離が近づいた。
ピタリと足を止めた先には普段通りの無表情がある。
「師範、せっかくなので今から椿油塗ってみませんか? 私と炭治郎がやりますので」
「(どうして二人でそんな事をするんだ?)」
義勇の脳内はただただ疑問符が浮かんでいた。