第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「水柱の継子の沢渡です、よろしくお願い致します…」
耀哉に紹介された七瀬は、緊張感が最大限に達した状態で会場に入室した。中にいた柱は風柱、蛇柱、岩柱の三人と水柱の義勇だ。
各々皆集中しているようで七瀬に対する反応は少ない。
しかしそれが却ってありがたく、彼女は義勇の姿を横目で確認するとそそくさと彼の後ろへ静かに腰を下ろした。
それから蟲柱、恋柱、炎柱、音柱が到着すると途端に部屋の雰囲気が明るくなり、七瀬の緊張はややほぐれていく。
「みんな、揃ったね。二回目の百人一首大会に参加してくれてありがとう。今回も楽しんでね」
優勝者には以心伝心の大将が己の好物を一年間限定で提供してくれる。耀哉の口から改めて伝えられると、参加する柱達全員の心にポッとやる気の炎がついた。
前回あと一歩の所で優勝を逃した炎柱の杏寿郎は人一倍メラメラと燃えたぎっているのは想像に難くない。
一試合目の行冥対杏寿郎、二試合目の実弥対天元、三試合目の小芭内対蜜璃の試合が行われていき、四試合目。
義勇はしのぶとの勝負に勝ち、順調に進んだ。
「クソがァ! 何で一枚しか取れねえんだよ…!」
「解せぬ…冨岡に負けるとは…!」
水柱は二回戦の風柱、三回戦の蛇柱にも勝利し ——-
「それじゃあ決勝戦は義勇と杏寿郎の二人だね。これから十分の休憩の後、始めよう」
「(師範凄い! 決勝まで進むなんて…!!)」
七瀬は休憩時間中、それまでの試合経過を炭治郎への手紙にしたためていた。
任務に行く直前まで義勇の勝利を信じて疑わなかった彼に少しでも早く結果を知らせる為だ。
「(何か声をかけた方が良いのかな…いやでも師範はそんな事しなくても…)」
筆を持つ手を一度やめて、しばし逡巡する七瀬。やがて心が決まって向かった先は ———
「師範、申し訳ありません。お時間少し良いですか」