第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
玉砂利が敷き詰められた広大な庭園は見事な物だが、訪れる者をどこか安心させる東屋まで設置されている。
七瀬はぐるりと庭を見回したのち、義勇を探しにいこうと母屋に足を進めた。
ジャリジャリと歩く度に鳴る石の音が新鮮に感じられ、そう言った瞬間も普段とは違って高揚する気分を、彼女は抑えきれない。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「お館様って本当に凄いなあ」
「呼んだかな?」
「え…?」
わあ、と驚きの声が自分の意思とは関係なく表出してしまう。
それは予想外の出来事がこのように目の前で起こった時である。
「…は、初め…まして、お館様」
「七瀬だね。炭治郎と禰󠄀豆子は息災かな? 君と炭治郎は最近義勇の継子になったそうだね」
妻のあまねと並んで縁側の廊下を歩いていたのは【お館様】と全鬼殺隊員が呼ぶ産屋敷耀哉その人だ。
「それから私は最終選別の時に一度君と会ってると思うんだけど、こちらの勘違いかな?」
予想外の人物と初めて来た場所。七瀬の脳内は先程からずっと忙しない。彼女は耀哉の言葉を受け、ようやく選別時に当主と顔を合わせた事を思い出した。
「も、申し訳ありません! そうです、おっしゃる通り一度お会いしていました…!」
「ごめんね、私が急に声をかけてしまったから驚いただろう。今から私達も会場に行く所だから君も一緒においで」
耀哉の穏やかな声に七瀬は緊張も次第に落ち着き、彼の言う言葉に従う事にした。
けっして高圧的な物言いではない耀哉だが、口から発せられる声色に殆どの隊士がほわほわと心地の良い気持ちにさせられてしまうのである。
正面玄関から改めて屋敷内に入った七瀬は、あまねと連れ立って歩く耀哉の後ろを付いていく。
会場に向かう間も耀哉の労いに照れながらもありがたく思い、時々後ろを振り返るあまねの美しさにドキドキと胸が高鳴った。
「待たせたね、みんな。先日義勇の継子になった七瀬と丁度一緒になったんだ。仲良くしてあげてね」