第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「いただきます」
三人の声が揃うと、いつもの朝食の風景だ。会話はなく、互いの茶や汁物を飲む音が響くのみである。
「…来月二回目がある。早く札を取れるようになってほしい」
「ん? え?」
「義勇さん、二回目って何の事ですか?」
義勇の突然の発言に変わらず戸惑うのは七瀬、すんなり受け入れ質問をする炭治郎。
水柱は七瀬の反応を別段気にする事もなく、話を続ける。
二回目と言うのは、どうやら鬼殺隊本部で開催される百人一首大会の事で、前回優勝した無一郎は不参加だと言う。
「霞柱が不在だとすると、優勝候補はどなたなんですか?」
「煉獄と甘露寺だ。よく食べる」
「確かにお二人はたくさんごはんを食べると聞いた事があります」
「以心伝心は何でも美味い。俺も食べてみたい」
義勇が何故ここまで言うのか。それはこんな理由がある。
この百人一首大会で優勝すると、以心伝心の大将が一年間限定で優勝者の好物を作ってくれるのだ。
食事代はお館様こと産屋敷耀哉が全て支払う手筈になっているので、柱の面々の気合いもそれなりに入る。
「以心伝心の鮭大根は私も食べてみたいかも。きっと美味しいのでしょうね」
「冬限定って確か聞いた事あります。一年間毎日大好きな物を食べれるって良いなあ。俺も食べてみたいです」
「ではこの後、早速頼む」
「はい!」
師範と継子達の思いが、今この瞬間一つになった。
★
それから二週間経ち、百人一首大会当日になった。
炭治郎は前日から任務が入ってしまい、水柱に同行出来たのは七瀬だけだ。
『七瀬、しっかり見届けて来てくれ! 俺も義勇さんが優勝する所見たかったー!』
師範の優勝を信じて疑わない炭治郎。義勇が内心ほっこりとしたのは言うまでもない。
一般隊士は余程の事がない限り、来る事はない鬼殺隊本部こと産屋敷邸。
継子の特権で来訪出来た七瀬は隠の背中から降り、目隠しを解かれた瞬間に、ほうっと感激した。