第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「やったー! 炭治郎にやっと勝てたー! 」
「悔しいなあ、一枚差だ…」
十分後、継子同士の勝負がついた。義勇は七瀬と炭治郎の様子を見ながら、ほうと一人静かに感心する。
「(剣術は炭治郎が一歩先をいっているが、かるたは沢渡に分があったか。では——)」
次は自分と対戦だ、と義勇は七瀬に伝える。しかし瞬時に彼女はそれまで喜んでいた表情を引っ込めて「あぁ」と力無く呟き、天を仰いだ。
「師範には勝てないと思いますよ?」
「始める前からそんな事を言うなら、遠慮なく取らせて貰おう」
「…わかりました、やります」
少しムッとした様子を表出した七瀬に義勇は心の中でしめたなと思っていた。継子達との共同生活が始まり、炭治郎はもちろん七瀬の性質も段々と把握出来るようになった為だ。
尚、案外負けず嫌いなのは水柱も同様である。
場の空気をにおいで察知した炭治郎が読み札を畳から集め始めると、義勇と七瀬もそれに倣って集めていく。
取り札を両者の前に配った炭治郎は、読み札を混ぜながら逡巡した。
「(七瀬、義勇さんと少しだけ似てる所あるんだよな…)」
ふうと短い息をついた彼は、先程の義勇と同じように序歌を読む。
瞬間、二人の頭が触れそうな所まで近づいた。互いの視線は札にのみ注がれている。
「天の原(あまのはら)ふりさけ見れば春日なる ——」
パァン!! と札が取られた音が響いた後、続けて読まれたのは「三笠の山に出(い)でし月かも」
「(速い!! もう取られちゃった)」
この歌は七番で、大空を降り仰いで見ると月が見える。ああ、故国日本の春日にある三笠の山に出ていたのと同じ月だ。
そんな意味がある。