第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
七瀬と義勇の勝負もついた。結果は——
「参りました」
「二枚取れたのだから、前回より進歩したな」
「…」
二枚取れたが二枚だけしか取れていない。七瀬は義勇の言葉をそのまま受け取る事が出来ず、内心落ち込んでいる。
故に師範の言葉が皮肉に聞こえている状態である。
「義勇さん、七瀬!お疲れさまでした! 俺、お茶の用意をして来ます…」
「あ、じゃあ私も ——」
言いかけて腰を上げた所へ、お前はここへいろと言われてしまった七瀬はしぶしぶと座り直す。
パタンと障子が閉まり、義勇と二人きりになった。取った札を彼に渡すとする事がなくなってしまい、手持ち無沙汰だ。
会話は特になく、部屋に響くのは外で鳴いている雀の鳴き声だけだ。沈黙が更に続く。
「(早く炭治郎戻って来ないかな…師範と二人は緊張する…)」
カチカチと壁掛け時計の秒針が動く音が不思議と大きく聞こえるような気がする七瀬は、深く長い深呼吸を一度した。
「俺は好きな歌をまず覚えた。興味がある物に目を向けてみる事が大切だ」
「…ん? え、好き、な歌ですか?」
七瀬は義勇が前触れもなく言葉を発した為、理解が一瞬遅れてしまう。好きな歌と言うのはもしかしたら百人一首の事であろうか。
目の前の水柱が札に目線をやりながら話している事で、合点がいった彼女。じっと義勇が見つめる札を覗き込もうと一歩近づくと、何故か眉間にシワを寄せる彼である。
「何故こちらに来るんだ」
「申し訳ありません…!師範が何の札が好きなのか確認しようと思って…」
「ではそのように言えばいいだろう」
「…言葉が足りない師範に言われたくないんですけど」
【心外だ】と言わんばかりに両目を見開く義勇だ。彼がこう言った態度を見せる事はあまり多くはない。