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恋はどこからやって来る?(短編・中編)

第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴



気持ちの起伏も表情の起伏も変化が少ない義勇だが、一つ屋根の下で共に住んでいると僅かな変化を察する事が出来るようになって来た。

これは水柱が己の師範になった事による、大きな恩恵かもしれない。

「今日はそんなに染み込ませなかったけど、充分おいしいね!」

「そうだな! 時間に余裕がない時はこれで充分かも」

「…」

七瀬と炭治郎は会話をしながら食べるが、義勇は黙々と食べる。これが二人が継子になってからの普段の食事風景である。




「今日は俺が読み手をやる。お前達のお手並み拝見だ」

「はい…わかりました」

「よし! 七瀬より一枚でも多く札を取るぞ!」

三人は和室に移動し、札を挟んで対面に座るのは継子の二人で、師範の義勇は七瀬と炭治郎が座っている畳の縁の外側に座った。

義勇が持っている読み札を順不同に混ぜ、手に持つと序歌を静かに読み上げていく。

「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花」

七瀬は両目を瞑り、義勇が読む序歌を集中して聞いていた。
自分が好きな歌を己の師範が読み上げている。
何故だか気持ちが落ち着く気がした。

「山里は 冬ぞ寂しさまさりける」

向き合った二人の体がグッと前方に近づく。頭と頭が当たるのではないか、と言う距離だ。

「(これ二十八番…!!)」

まさかこの歌が最初に読みあげられるとは予想外の七瀬だったが、幸い札は体を伸ばさなくても届く範囲に置いてある。

「人目も草もかれぬと思えへ(え)ば」

パシン! と札に手が当たる音が部屋に響いた。
「最初から取られた!」と炭治郎が天を仰ぎながら小さく呟くが、すぐに気持ちを切り替え、再び前を向く。

百人一首の二十八番は【山里は、冬こそ寂しさが一段とまさって感じられる、人の訪れも無くなり、草も枯れてしまうと思うと】と言った、何とも物寂しい和歌である。


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