第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
義勇は炭治郎に好感を持っているし、炭治郎も義勇を慕っている。
それは紛れもない事実だ。
しかし、義勇の中で「自分は鬼殺隊にふさわしくない。いていい人間ではない」と言う自責のような感情が、最終選別に合格した後からずっとある。
師・鱗滝左近次の元で共に鍛錬をした錆兎に命を助けてもらったが、彼は炭治郎がのちに倒す事になる手鬼と言う悪しき鬼に殺されてしまったからだ。
義勇自身、選別の時に鬼を一体も倒していない。
「(詳しい事はよくわからないけど…水柱は上官らしくない所あるよね。さっきも自分は役不足だって炭治郎に言ってたし)」
七瀬は炭治郎と昼餉がのった盆を厨(くりや)に持って行くと、水柱邸の専属隠に「私がやっておきます」と言われた。
隠に託した後は共に炭治郎と向かうが、「義勇さんと試合だ! 絶対勝つぞ!」と再び両手で力こぶを作る彼を横目で見ながら、思案を始める。
柱に対して一般隊士が一人で向かっていくのは、経験値が違う。それゆえ圧倒的に不利だろう。
「(私も助太刀して良いか、水柱に提案しなきゃ)」
★
「お待たせしました! よろしくお願いします…!」
庭で木刀を二本持って立っている義勇が目に入った瞬間、炭治郎は彼に駆け寄った。
七瀬はそんな二人を少し離れた場所から見ながら、一人決意を固める。
「あの! 水柱、これからやる二次試験について提案があるんですけど」
「塩大福はやらんぞ」
「(そんなに好きなんだ。気持ちはわかるけど)」
彼女は塩大福が欲しそうな態度を水柱邸にやって来て一度も見せていない。
しかし、持って来て良かったなと七瀬は改めて感じた。
「あ、はい! 大福は全て食べて頂いて構いません。そうではなくて…炭治郎に助太刀したいんですけど」
「何故だ」
柱と一般隊士の一対一では経験値が違うので、あっという間に勝負がつく。だから二人で義勇に挑みたい。
「あなたは【柱】です。相手が一般隊士なら複数で向かわないと、公平性に欠けるかなと思いました」
「…」
七瀬の指摘に義勇はしばし逡巡する。