第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
三人が昼餉を食べ始めて五分後、客間に響くのはそれぞれが茶や汁物を飲んだり、皿を動かすと言った音のみだ。
会話は全くない。
義勇は普段から積極的に話す性質ではないのだが、食事中はよりそれが増してしまう。
彼は食べながら話すのが苦手な為である。
ではいつ言葉が表出するのかと言うと ——
「…い」
「ん?」
「え?」
「…」
突然義勇が声を発した為、七瀬と炭治郎は一瞬だけ食事をする手が止まった。
水柱は何かを呟いた後、また今までと同じように黙々と食事を続けて行く。
「美味かった、大福は後で食べる」
「え?」
「…ありがとうございます!!
それから更に十五分後、皆が食べ終わりそうな頃合いで義勇が言葉を発した。
今度ははっきりと聞き取れた炭治郎が、にっこりと口角を上げながら嬉しさを表出させる。
「(食事中、話さなかったのは集中して食べてたから?)」
「手間をかけたな。これは俺が持っていく」
「いえ、義勇さん! 俺達がします」
食器が乗った盆を持ち、腰を上げた義勇を静止した炭治郎。
では頼む —— 同時に立ち上がった彼に盆を渡すと、静かに襖を開ける水柱だが。
「これから二次試験をする。庭にいるから、炭治郎も後で来い」
「…?」
「あの〜二次試験って何ですか? 唐突すぎて、ちょっとわかりません」
食べ終わったと思いきや、今度は不可思議な事を言う義勇に対し、七瀬は率直に疑問をぶつける。
二次と言う事は一次がもう行われていたのか。
一体いつの間に。
七瀬が炭治郎と目を見合わせ、互いに首をひねる仕草をすると、義勇が一言。
「一次試験の昼食は申し分なかった。次は二次の剣術で力を示せと言う意味だ」
言うべき事は伝えた。
彼は一旦二人に向けていた顔を再び前に戻し、今度こそ客間を退室した。
「昼食が試験に該当していたんだ。確かに完食はしてるけど…」
「みたいだな。よし! これで義勇さんの継子に一歩近づいたぞ〜」
グッと両手で力こぶを作った炭治郎を見ながら、七瀬は再び思案を始めていた。
「(あ…もしかしてここで炭治郎に諦めさせる作戦かな)」