第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「よくわからないが、お前の口から村田の名前が出た途端 ——」
胸の中に尖ったモヤのような物が浮かび、それがあまり気持ち良くなかった。義勇は七瀬に己の中に生まれた感情を正直に、ありのまま伝える。
「義勇さんが嫉妬する姿を見ることになるなんて…世の中何があるかわからない物です」
「大袈裟な事を言うな」
「ふふふ」
七瀬は破顔し、心の中に何とも言えぬ高揚感がふわふわと浮かんでいた。無表情で言葉数も少ない義勇からまさか嫉妬などと言う感情を引き出せるとは。
まだ見た事がない兄弟子がいるのかもしれない。そんな事を妹弟子が内心考えているとはもちろん知らない義勇である。
「もっと見たいなあ」
「? 何をだ」
しまった、と七瀬は思ったが、もはや後の祭りだ。髪を梳かしていた右手をそっと取られたかと思えば ——
「え、なにって…?」
「俺の何をお前は見たいんだ? 言ってくれねばわからない」
「あ…はい…」
七瀬は目の前にいる人物が本当にあの兄弟子なのかと、思わずにいられない。
義勇から異性として見られている。この事実は彼女の心臓の鼓動を否応なく高めていくのだ。
「義勇さんの…その、普段見れない姿を…見れたら…私は嬉しい…なあ、と」
「…特に普段と変わっていないと思うが、お前はそう思っていないと言う事か?」
「そうです。普段とちょっと…うーん。だいぶかな…違います」
「…」
静かに口を閉じた義勇の視線は、目の前の七瀬の双眸をとらえ続けていた。普段はあまり感情が読めない彼の濃紺の瞳には情欲がはっきりと浮かんでいる。
二人の手は絡み、やがて義勇は再び七瀬の唇に口付けを落とした。ゆっくりと少しずつ当てる角度を変えながら交わされる愛撫は、恋人同士が醸し出す雰囲気そのものだ。
「ぎゆ、さ…」
「今は…喋る、な」