第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
暗い空にはほんの少しの雲と、たくさんの星と、静かに浮かぶ上弦の月。
その月明かりが差し込む一室では二人の男女が互いを求めて肌を重ね合わせている。
「んっ…ぎゆ、さ…ちょっと…苦し…」
「もっとお前に…近づき、たい」
あの後湯浴みを済ませた七瀬だが、義勇の愛撫でその体はほんのりと湿りが増している。
赤い鬱血痕や甘噛みをされた痕は、小さな物が胸周りに点在もしている。
「はあ…すみ、ません。息..したいで、す」
「…わかった」
名残惜しさを隠し切れない義勇だが、要望通りに彼女の唇から自分の唇をゆっくりと離した。
「ふう」
「すまない」
「謝らなくて大丈夫ですよ。気持ち、良かった、ので」
「…」
ちう、と義勇は七瀬の唇を一度吸い上げる。小さく短い口付けだが、気持ちは存分にこもっていた。
「しばらくこうして良いか」
「わかりました…」
トン、と義勇は七瀬の胸元に自分の頭を乗せ、瞳を閉じる。
ドクン、ドクンとやや早足で鼓動を刻む彼女の心臓の音を耳元で感じ、ふうと短い息を吐く水柱。
「髪…」
「どうした?」
「触っても良いですか」
「ああ」
七瀬はゆっくりと義勇の髪の中に右手を差し込み、上から下に向かってスッスッと手櫛で整えていく。
「ちょっと硬くないです?」
「ほとんど梳かさないからな。無理もないだろう」
顔は大層整っており、声も程よく低く、そして耳馴染みが良い義勇の声。
だが、ただ後ろで結んでいるだけの無頓着さが美麗な見た目とはまた違った魅力を出しているのも事実である。
『でもこの無造作な髪型が好きって言ってた人もいたなあ』
髪紐を解き、普段結んでいる髪を下ろしている姿はなかなか珍しい。
七瀬が髪を梳かし続けていると、ふっと胸元から温かみが消えた。
「もう良いんですか?」
「ああ、今度はお前の髪にも触れたい」
大きく、骨ばった彼の手が彼女の髪をゆっくりと丁寧にとかしていく。
少しくすぐったくもあるが、心地は良い。瞳を閉じてその感覚を味わっている七瀬の口元に笑みが幾度も浮かんだ。