第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
男を食ったとは一体どう言う事なのか。
任務が終わり、小腹を満たしたその後に鴉を飛ばした。それからずっと体も心も緊張が続いている彼女。
「冗談だ、食事の事だ」
「えっ? あ…そう言う、事ですか」
やはり普段の兄弟子とは様子が違う。七瀬は改めて血鬼術の効能に感心をした。
『冗談なんて一回も聞いた事ないもんね…。今の冨岡さんなりの気遣いだったりするのかな』
緊張した様子と言うのは、言葉に出さずとも相手には案外伝わってしまう物である。
食べて来たと七瀬が返答すれば、そうかと答える義勇。それ以上は聞かれなかったので、ここは普段通りだなあと納得する。
長く続く廊下をしばらく歩いていた七瀬と義勇だが、前にいた水柱が突然ピタッと止まった為、彼女は彼の背中に顔をぶつけてしまう。
「ん、もう…急に止まらないで下さい」
「…すまない」
襖をスッと静かに開けた義勇は、鼻を押さえている七瀬の背中に右手を添え、入室を促した。
パタンと襖が閉まる音を背後で聞いた彼女は、ドキドキと心臓の鼓動が次第に速度を増していく。
「七瀬」
「はい…」
後ろから包まれるように抱きしめられた彼女は、自分の名前を呼ぶ義勇の表情を想像した。
彼は一体どんな顔をしているのだろう。
普段の義勇はあまり話す事はなく、表情の変化も少ない。
しかし、今は。
「あったかいです、義勇さん」
「そうか。であれば良かった」
耳元で涼やかに響く水柱の声には、穏やかさと優しさがのっている。
「今、どんな顔しているんですか?」
「すまない。ここには鏡がないからよくわからない」
「ふふ、じゃあ…」
義勇の腕の中でくるりと一回転した七瀬は、彼の頬に両手をそっと当てた。
「わからないから、こうやって直接見ます」
パチパチとまばたきを繰り返す義勇である。
『やっぱり綺麗な顔立ちだなあ。ずっと見ていたいかも』
「ずっと見ていれば良いんじゃないか」
「…!!」
——これがよく言われる以心伝心。
「俺はをずっと…見ていたい」
「義勇、さん…」
「こんなにも愛らしいお前を」