第4章 不協和音の奥に眠る愛
「だが、今回、有栖川一家への襲撃があって以来、人の温もりを感じるような振る舞いを続けておる。
そして、何よりも、あの男が初めて隊士でもない、ましてや、世の中の習わしに囚われることなく、そなたを継子にしたいと願い出たことを縁壱から聞かされた。
その継子にしたいという者が女性であるそなただと聞いたときには驚いたのだ。
あの男は世の秩序に過敏であると思っていたから.....。」
「景勝は、わたしに言葉を残しながら、共に最後の言葉を聞いた巌勝様に何かを感じ訴えているようにも感じたのです。
恐らくわたしを継子にすると言ってくださったことも何らかが彼の心を動かしたのだとそう解釈しております。
わたしはまだ巌勝様の剣技しか見たことがございませんが、
その剣技は力強く美しいものでした。
巌勝師範はそれに見合うお優しく、人間らしい心を持っていらっしゃいます。
恐らくそれが何かの影響でそれが見えなくなってしまっているだけ。
ご心配には及びません。」
「そうか.....。余は立場から言うても寄り添ってやることは出来ぬ。
一番にあの男を見ていくのは其方だ。
気にかけてやって欲しい。」
「御館様。一期一会にございます。
わたしが出来ることは、父・景勝に習うてきたように
己の迷うことなき一念の剣で、相手の心と真摯に向き合う事のみと心得ております。
こうして出会えたのです。
何かは必ずや良い方向に向かいます。
何も心配いりませぬ。」
美玲はそういって微笑んで見せると、目を伏せて穏やかに頷いた。
「其方はやはり、強く優しい。立派な剣士に育ててもらいなさい。」
「はい!これからが楽しみにございます。」
満面の笑みで答える美玲につられるように
産屋敷俊哉の表情も幾分と心からの笑顔が漏れた。
「美玲。過大評価して、多大な期待を負わせるが、其方は等身大でおられよ。
背伸びせずともよい。
余が言ってやれるのはそれくらいだ。
其方が其方の事を一番に解っておるであろうからな。」
「お言葉、有難うございます。」
再び頭を垂れたその上からは木漏れ日のような暖かなまなざしが注がれていた。