第4章 不協和音の奥に眠る愛
兄が鬼殺隊に入って初めての事で私は驚きました。
”あの日”以来、私に表情を見せることが無くなってしまった兄のその表情とその言葉に私は不謹慎ではありますが嬉しいと思ったのです。
そして、
「有栖川美玲を継子としてお前と育てたい。」
と申したのです。
有栖川家は藩の剣術指南役とも知られていましたが、亡くなられた当主は人望も厚いお方だとお聞きし、先代の御館様の代から有栖川家の侍に興味をお持ちなようでした。
兄上は御当主と何かを最期に話をされたのでしょう。
そのことで何か心に響くものがあり、生き残った御息女とお話されて決めたことなのかもしれません。
それにしても、兄上がまだ隊士でもない者を隊士に推薦する事を飛ばして継子にして育てるとご自分でお決めになったことも初めての事。
そして何よりも私が、心の距離を遠く感じていた兄上からそのような事を申し出て下されたことが、今まで生きてきた中で何よりも嬉しかったのです。
私は、その者が剣術の名門有栖川家の後継者いや、当主になられる御息女ということで、その場で快諾しました。
天にも昇るような気持でございました。
念のためと申しましょうか、近隣の者に美玲殿の話を聞いたところ、申し分ないと判断し、彼女と会うことを楽しみにしておりました。
そして、さらに驚いたのが、喪服姿で屋敷を出ていく兄を見かけた時。
これも、任務で犠牲になった者の葬式に赴くことなど無かった兄上だったので、お見掛けした時には目を丸くしたものです。
それほどまでに、亡くなったご当主の存在が...、いや、”有栖川家”の者たちの御存在が兄の心を大きく動かしたのでしょう。
ますます、迎えの日が楽しみになっていたのです。