第4章 不協和音の奥に眠る愛
「美玲の話はこれで終いにする。
柱の君たち。解散してよい。気を付けて帰るように。」
「「「「御意」」」」
「有栖川美玲。其方は少し残っておくれ。
余は普段、継子を向かい入れることに関与することはない。
この後、美玲にどうしても二人きりで話したい事がある。
二人は、離れの待合で彼女を待っていて欲しい。」
産屋敷俊哉の真意がわからず、また初対面にもかかわらず話したいことなど見当もつかぬ美玲は困惑した面持ちで目の前の当主を見上げた。
巌勝も縁壱もワケが分からずと顔を見合わせるも、すぐさま彼の言葉に従うと頭を下げた。
「「御意」」
庭の砂利を踏みしめる音が美玲に近づき、前に来ると音を止める。
頭を垂れた彼女の視界に入る紺の椿柄の着物の裾は、当主の娘のもの。
「有栖川様、ご案内申し上げます。」
齢は孝太郎と同じくらいの年頃の少女は美玲の前に立ち頭を下げた。
「はい。よろしくお願いします。」
立ち上がって案内されるがままその後ろに続いて呼ばれている部屋へと向かった。
産屋敷俊哉もその場を静かに立ち去る。
継国縁壱は当主の去る音を聞きながら、ついひと月半前の兄・巌勝の様子を思い出していた。
五月晴れの続いたある日、私は合同任務で強い鬼で苦戦しているという地区に赴き兄の宿泊する鬼殺隊専用の宿に来ていた。
兄上はどんな任務であろうとも表情一つ変えることのないお方だった。
どれだけ死人の出ている任務先から帰ってきた時も、まるで時が止まっているかのように。
それが、宿に戻ってきた兄上は、いつも以上に難しい表情をされており聞いても何でもないと仰るばかり。
次の日、仕留められなかった鬼の後を追い、他の柱と昨日鬼が出た街の周辺への警備に向かった。兄上は有栖川家のある町とその隣町の警備、見回りの担当に志願しむかわれた。
その時に私と共に行動する鎹鴉”朱雀”から連絡が入り、兄が有栖川家を襲っていた鬼の頸を撥ね、到着が間に合わず2人程死者を出してしまったことを知った。
宿に戻り、労いの言葉をかけようと待っていると、少し落胆されたご様子で兄上が返ってきた。
「御当主を救えなかった。惜しい人物だった。」
そう言ってため息を漏らされました。