第4章 不協和音の奥に眠る愛
どれだけ走ってきたのだろう。
風を切る音と圧で若干疲れて始めた頃、目的とする場所に到着したようで、降ろされて目隠しが取られた。
平衡感覚が狂い、眩しい初夏の光がさして目がくらみ思わず両手で顔を覆いしゃがんでしまった。
「.....有栖川。立て。.....ここがお館様の屋敷だ。」
覆っていた手を離し見上げると、咲き狂った藤の花を主とした荘厳な景色が眼前に広がり、自分がその屋敷へと続く通路にいる事がわかった。
「申し訳ございません。ここまでお運びくださり有難うございます。先ほどの愚行お許しください。」
「.....当然の事だ。」
さも気にしてはいないように先を歩き始めた師範に慌ててついていく。
進むその先も美しく壮大な庭園に心を奪われる。
散り降る藤の花びらの先に大きな屋敷。
そこが、この世の楽園と思わせる一方でピンと張った緊張感で背筋が伸びる空間。
広い庭の両脇に二人を通す道が開けられ20人程の屈強な侍たちの強い眼差しが一斉にこちらに向いた。
「.....柱総勢24名。継子を迎えるにここまでの人間が揃う事自体が異例だ。
.....それだけ有栖川家当主と”鬼殺隊初の女剣士”ということに注目されているという事を忘れるな。」
そう言い渡されて、更に身が引き締まる思いで巌勝の後ろに続いて歩いた。
”おい。あの有栖川の当主があの女だってよ。”
”御館様もそうだが、何故あの堅物までが女を推薦した”
”女が一人入れば場を乱す。俺は認めねぇ”
囁かれる声はどれも”女の隊士、剣士、武士”である美玲を否定する言葉。
ちらりとその者たちに視線を向けるも
それを覚悟で乗り込んだ船だと、悔しいながらも平常心を貫き、心で耳を塞ぐ。
二人の師範をたてるようにしっかりと前を見据えた。
今回の議題の当事者である美玲を師範二人が挟んで前列で跪く。
後ろはまだ、己の事でざわつき、心平静に視線を伏せる。
暫くして廊下の奥からすり足の音が響くと水をうったかのように静まり返る。
二人の幼女が前に出てまるで人形のように無機質な笑みを浮かべ
「御館様の御成りです。」
と声を揃えて言った。
ザザ...っと音を立てて、皆が深く頭を垂れ平伏する気配を後ろに感じた。